2009年12月 3日
スポーツの舞台裏 

第10回 セルフモニタリングとセルフコントロール

スポーツは「心・技・体」から成ると言うが、「心」のトレーニングはあまり実践されていないのが現状だ。それは緊張などの心理状態を分析しようにも、簡単な方法がなかったことに要因がある。

 本学の坂入洋右准教授(体育)は、征矢英昭教授(同)と共に、心理状態を簡単に見ることの出来るテストを作成した。「TDMS(二次元気分尺度)」というもので、8つの質問に答えるだけで、包括的に心理状態を測れ、グラフに現せる。

 これまでの心理状態の度合いを測るテストは質問項目数が20─50と多く、不安や緊張などの限られた心理状態しか測ることが出来なかった。また緊張の度合いを示すグラフは、「沈静」と「興奮」を極に、覚醒度だけを測る直線だった。今回作成したグラフには、快適度、安定度、活性度が加えられ、より細かく心理状態を分析出来るものになった(下図)。

 「一口に緊張といってもアメフト選手の試合中の緊張と、弓道選手の矢を射る時の緊張では、性質が違う」と坂入准教授は話す。アメフト選手は試合中に興奮と活性度が高い方が良い動きが出来る(グラフ上のAのエリア)が、弓道選手はある程度興奮しつつも、安定度が高い方が良いそうだ(グラフ上のBのエリア)。

 心理状態は課題差と個人差に影響され、同じ競技をしている人であっても一概に言うことは難しい。課題差とは、バスケットボールで言う、リバウンドかフリースローかといった動作や目的の差。またフリースローの時に、冷静な方が入る人と興奮している方が入る人がいるというのが個人差だ。

 坂入准教授は「大切なのは、グラフ上で自分が今どの辺にいるのかを知ること」と言う。このテストとグラフを用いて、調子が良い時と悪い時の心理状態をつかむことで、コントロールが可能になる。ただし心理状態は試合結果に影響されるため、テストは試合前に行う。毎回の試合や練習前にテストをし、データを蓄積することで、結果の信頼度は上がる。

 更に踏み込んで、自分の心理状態を制御(セルフコントロール)するにはどうすれば良いのだろうか。緊張している時に落ち着こうと頑張ると、交感神経が刺激され、更に体が興奮・緊張してしまう。沈静と興奮を司る自律神経系は、私たちの意志では制御不可能なのだ。 

 緊張をほぐす際の鉄則は「体から心へ」である。息を吸いながら肩を上げ、息を吐きながらストンと落とす。これだけでも十分リラックス効果はある。また深呼吸をする際、吐くのを長めにすると安静が得られ、吐くのを短く、強めに複数回に分けると活力が得られる(これについては本紙277号でも特集した)。

 「メンタルが弱い」と言って、むやみやたらに練習や試合数をこなすだけでは、選手の伸びしろにも限界がある。これからは選手が自分の心理状態がどのように身体に響くのかを把握し、コントロールするトレーニングが必要なのだ。

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(コピーライト:坂入・征矢)

【文=雪丸千彩子/筑波大学新聞281号より】