2009年9月 9日
<第7回> ヨーロッパで不人気な野球

 北京五輪も終盤を迎えて、なお盛り上がっているが、気の早い、次回ロンドン五輪での話題をひとつ。
 私の専門である野球がロンドン五輪の正式種目から外れてしまう。様々な理由はあるが、そもそもは五輪の中心であるヨーロッパでの不人気が大きな理由であ る。イギリスには野球の元祖クリケットがあるが、他のヨーロッパ諸国で盛んとは言えない。日本を始めとする東アジアやアメリカ、中米諸国で盛んなスポーツ が、なぜ、こうまでヨーロッパで人気がないのか?大きな理由は2つ考えられる。ひとつにはスポーツの構造的に他の球技と大きく異なることである。サッカー やラグビーでは時間いっぱいに絶えずボールと人が動いているのに対して、野球は基本的に投手-捕手と打者のやり取りに終始している。実際測ってみると、野 球でボールが動いている時間は、試合が3時間とすると20分くらいしかない。
 
 昔、学生代表のコーチとしてオランダで国際試合を行ったが、その時、野球を初めて見たという人に「野球はどうだい」とたずねたところ、「Bored(あ きてくる)」というのが答えだった。絶えずボールと人が動くことがスポーツ(球技)だと感じている人に野球を見せると、どうにもじれったく感じてしまうの だろう。
 不人気理由のもうひとつは、野球がアメリカ的とみなされている点だ。つまり、アメリカをどこか毛嫌いしているヨーロッパ諸国にとって、アメリカの国民的娯楽としての野球が「アメリカっぽく」見えていると考えられる。
 そのような中で、ヨーロッパにおける強豪国はオランダとイタリアで、オランダは歴史的に鎖国時代の日本とも通商があったように、他国の文化を抵抗なく受 け入れる傾向がある。イタリアはアメリカへの移民が母国に持ち帰ってきたのが盛んになった理由で、サッカーと同じくセリアAの国内リーグがある。そして、 近年盛んなのは東欧諸国である。チェコなどは今年、世界大学野球選手権が開催されるなど、人気とともに実力も上がっている。実はこの背景には日本の JAICA(海外青年協力隊)の活動も大きく寄与している。サッカーは先進国によって強豪国が固定しつつあり、新しいスポーツである野球ならばヨーロッパ でのイニシアチブが取れる目算がある。また、サッカー人気の行き詰まりやフーリガン問題がある国では、家族が安心して観戦できる野球はこれから人気が上が る余地があるとの話も、現地の方から聞いたことがある。
   いずれにしても、普及に向けて改善の余地はまだまだあり、アメリカや日本などによる野球人気国の普及への努力が期待される。
 
 最後に五輪と野球の関係を示すこぼれ話をひとつ。第2次大戦前ナチス統治下の1936年ベルリン五輪で、野球はエキシビションとしてメインスタジアムで 行われた(対戦はアメリカの2チーム。当初日本も招待されたが諸事情で不参加)。その試合は11万人とも12万人とも言われる観衆を集め、大盛況であっ た。好評を得た野球を次回の五輪において、ヨーロッパ諸国を含めた8カ国で行うことが決定した。しかし、この大会は開催されなかった。そう、この大会こそ 第2次世界大戦が起こって幻となった東京五輪である。この五輪が行われていれば、早々に正式種目となり、もう少し早く世界で野球が普及していたかもしれな い。その後、野球が正式種目となったのは、1996年アトランタ五輪であり、幻の東京五輪からは実に半世紀以上もの時間が経っていた。戦争はこんなところ にも暗い影を落としている。

【引用元】筑波大学体育センター 話題の宝庫より

【著者】川村卓